物の価値

300万円

 

ある楽器職人のバイオリンの価格。

我々一般人からしたら楽器にそれ程の大金を出すことは容易なことではないがプロの奏者が使うのであれば安い方らしい。

 

小学生だったか中学生だった頃、あるバイオリン職人を取材した番組をTVで観た。

 

バイオリン職人が1人アトリエで喋らずに木を削り出していた。

後ろにはカメラのレンズが有り、おそらく集中しづらい状態だったはずだ。

それでも彼は、目の前の作品に自分の持てる技術を注ぎ込んでいた。

その後ろ姿からは、気というかオーラを放っているように私には感じられた。

 

そのバイオリン職人は年に5本のバイオリンしか作らないのだという。

というか作れない。

自分の持てる技術のすべてを注ぎ込んで、現時点で最高のものを目指して作っているので5本が限界だというのだ。おかげで何年も先までオーダーが溜まってしまっているという。

なんとか早く仕上げてくれないかと頼まれても、それは出来ませんとお断りする。

 

早さを優先すると自分の納得した仕上がりにならない。そんなものをお客様に渡してしまっては失礼だ。

もう少し数を増やすことも出来るかもしれないが、お金のためにやっているのではないのだと。

価格は300万円だがこれより頂くことはない。今までよりも手間が掛かるようになろうとも自分の技術を磨くためにやっていることだからこれからも値段は上げない。

 

そう語る彼は誇りに満ちていて、そして幸福そうに見えた。

 

300万円

 

彼の作るバイオリンならけっして高くないと思う。